fish-buddha’s diary

主にtwitterで書くには長くなり過ぎる長文をこちらに書いています。

銀行員にとっての転職

 

【「とにかく転職」は死】

 始めに断っておくと、この記事は転職会社の提灯記事よろしくやたら銀行員の転職を称揚しようというものではない。(後述するが特に3年目までの転職には反対)これは銀行員に限った話ではないが、転職には良し悪しがある。

 例えば、所謂JTCでは転職者は一定の職位までは上がれても、部長級やその上の役職を目指すのは難しいことも多い。トップがプロパーでない、というのは社員の士気を考えても中々無理のあることだし、数十年に渡って一社で過ごすことで、社内に網の目の様に張る人脈は転職者にはとても得難い。

 勿論、転職して希望の待遇を手に入れるだとか、既存のスキルセットとのシナジーを発揮するだとか、良い側面もあるので一概にどうとは言わないが、いずれせによ本人の状況を鑑みずいたずらに転職を薦めてくる輩がいるなら距離を置いた方が良いとは思う。

 以上踏まえて、可能な限りフラットな目線で銀行員にとっての転職について考えてみたい。(尚、以下の内容については、支店勤務を中心に汎用のスキルを積み上げるケースを想定しており、本店等でそのまま売物になるスキル(ex.コンプラ・金融システム)を手に入れた場合はもうウッハウハなので、この限りではない

 

【銀行員の転職結果】

 Twitterでは金融アカウントとして長く活動した為、当時のFFは大半が金融関係者となり、その中でかなりの数が転職し、またその後の人生についても追いかけることとなった。正確な統計があるワケでは無いが、体感としては殆どのケースで転職は成功しており、大半の転職者は自らの希望する待遇を得て満足して転職後の仕事を続けている様に見受けられる(生存者バイアスもあるが)。

 考えつく理由として、銀行は営業に始まり、会計、運用の様なハードスキルに加え、厳しい上下関係や継続的な自己啓発等、サラリマンとしてのソフトスキル?も多く身につける事ができる環境が挙げられる。この為、一定期間銀行員を続いたのであれば、サラリマンとしての最低限以上の素養が身についており、転職後に所謂足切りに引っかかる様な辞め方をする人間はあまり見なかった。

 

【銀行員の転職適齢期】

 が、全ての銀行員が何時でも辞めて上手く行くかというとそうでもない。特に良くないのが短期離職者。銀行員を続けられるか否かには、社会人適性を持っているか否かの一つのリトマス試験紙的な意味がある様に思われ、一定期間を保たずして辞める様な人間については、その後も行方不明になっているケースが多い。その様な状況であればまずは3年続ける事を強く勧めたい。

 前段と合わせて銀行員に限った話でもないが、もし仮に辞める選択肢を採るのであれば、「適齢期」の様な物は存在する様にも思う。体感としては5年~10年目くらいの間で、それを過ぎてしまうと年齢的な要素に加え、銀行固有の事情もあって特に異業種には移りにくくなるのは事実と思われる

 

【銀行員のスキルセット】

 上段でも一部触れたが、銀行員としての汎用的なスキルセットは、多くの場面で活用可能できることは間違いない。特に営業/交渉力については年が行ってから身につける事が難しく、転職先に営業経験のある人間が少なければ強みになる事が予想される。数字周りが強い事・様々なビジネスモデル触れている事も中長期の目線で見れば武器になる機会が多い。

 この様に、銀行員としての汎用スキルセットは転職の場面において有用…有用ではあるが、採用の決め手にはなり難いかもしれない。即ち「決算が読めるの!いいね」とは言われるが、「決算が読めるのか!じゃあ採用しよう」とはなるかと言われればやや微妙だ。(勿論、転職先が同業(銀行)であればこの限りではない。)

 

【営業店で得にくい経験】

 個人的な感覚で一般的な銀行員を例えるなら、筋骨隆々たる鍛えられた企業戦士であることが多いと思う。ここでいう所の「筋骨」とは勿論物理ではなく、厳しい長時間労働やストレス耐性、営業としてのマインドセット等で、それはある種のポテンシャルとして非常な強味であるのだが、どうしても営業店で「一芸」や「華々しい戦果」の様な経験を積むことは難しい様に思う。ここで私が転職活動時に相談した、某敏腕人材エージェントから言われた一般的な銀行員の自己アピールに関する講評を転載したい。

 「銀行員に『サラリーマンとして一番創意工夫して成果を挙げた経験』を聞くと、金太郎飴みたいに大体同じ話が出て来るんですよ。『事務を工夫して外回りの時間を増やしました』とか『審査部に粘り強く説明して大口の審査を通しました」とか、それ銀行から出たら創意工夫とは言わないんですよ」

 

【ポテンシャルと目に見えやすい成果】

 これは自分自身の前職での業務を振り返ってであるが、営業店での業務はどうしてもルーティンが中心になり、例えば何か特定のプロジェクトについて自分主導でリサーチ・計画して進める様な経験を積める機会というのは少なかった(無かった)。結果、業界の外に出て響く様な話をしようとすると、相当の創意工夫と強引にでもそれを実現する胆力が必要になってしまう。知る限りそこまでの事が出来る個人というのは多くは無い。

 異業種では業種によるが、相応の年でこの辺の経験を積めてしまうものがある。PMになれば小さいPJでも自らマネジメントして成功させる様な経験をされてしまうし、各事業会社では30にもなると当該業界について一通りの知識を他で活かせるレベルで習得してしまう。ポテンシャルでは勝っていても、上述の様なキャッチーな経験のしづらさや成果の上げづらさがあり、「年相応に求められる目に見える成果」というものが辛くなってきた所で、ポテンシャルには特性上どうしても賞味期限があり、相対的に辛くなる事は想定される

 

【そもそも銀行を辞める必要があるのか】

 ここからは月並みというか一般的な話になるが、多少昇進の門戸が狭まったくらいであれば世間的に見ても銀行員の待遇(給与等)は全体から見れば未だに十分良い部類に入るし、よく聞く所ではベンチャー等への転職者は転職後に銀行の福利厚生の厚さに気付くと言われる。加えて言えばこれは自分が外に出て分かった事だが、例えば昇進の格差等はもっとドラスティックで一生平という社員も銀行より多く存在した。駄目になった社員を収容する「事務センター」の様なセクションも無かった。

 何故その様な待遇を得られるかと言えば、そもそも銀行員として一定期間以上働けている時点で稀有な才能の持ち主だからだ。ずっと無形営業をやってきた銀行員が有形の営業に移るのも難しいが、逆も然りで商品性で差を付けられない貸金や投信等の営業はそうそうできるものではない。また強烈なストレスに耐えながら、経営者と対等にビジネスが出来ている時点で既に選ばれた人間であるワケだ。敢えてその立場を捨てる必要があるのか。

 

【結局、最後は向いているか否か】

 ここまで取り留めもない話をしてきて、最後には、就活生向けと同じ議論に回帰することになるのだが、結局は求められる才能・スキルと自分自身がフィットしているか、ということに尽きると思う。私が転職後に求められたスキルは銀行員時代とはかなり異なる物だったし、同じく他業種から弊社に来た別の転職者で1年保たずに転職した方もいた。詰まる所銀行であろうが外であろうが、合わなければ無理という点においては同様で、その点は新卒も中年もフラットだ。

 前述の通り、銀行で一定期間やれたのであれば、その時点で銀行員にとしてフィットした才能やスキルの持ち主ということで、それを敢えて捨てていくのであれば、相応の理由があった方が良い。即ち持っているのが「転職先で求められる適正>>>銀行員としての適性」であるという事実だ。転職先で求められる仕事を具体的にイメージし、それは自分に可能か/向いているかを占い、個別の先ごとに判断するしかなく、各種待遇のでっこみ引っ込みはその結果でしかないのだと思う。