fish-buddha’s diary

主にtwitterで書くには長くなり過ぎる長文をこちらに書いています。

「銀行が取引先の経営改善」は現実的か

 本件については、金融機関から事業会社に移った立場として、非常に興味を持っており、以前、下記の記事で若干触れた内容であるが、かつて金融庁が旗振りを行い、(多分)今は実現していない「銀行による(主に中小企業の)経営改善」について、少し深堀してみたいと思い、はてブすることにした。

捨てられた「捨てられる銀行」 - fish-buddha’s diary

 

【中小企業の改善余地は多い】

 私自身が元銀行員として中小企業も多く担当した経験を踏まえて言うのであれば、中小企業は大企業と比較した時に多くの改善余地を残していることが多い。例えば経営者の方がたたき上げのサラリーマンや経営の専門家である大企業に対して、中小(=ほとんどがオーナー)企業の社長は世襲であるのでどうしても大企業の様な高度人材ではなく、悪く言えば親から引き継いだものをただそのまま漫然とやっている方は多くいた。そうした方々は、事業に関してはずっとやっていてプロではあっても経営や会計の知識を欠く事も多く、何か能動的に情報を取りに行って物事を改善するという能力は無かったりした。

 

【銀行は多分一番近い位置にはいる】

 以前の記事でも書いたが、「誰がそんなことをするのか」と問われた時に一番実現可能性が高い位置にいるのが銀行であるという事実はあると思われる。理由は下記。

①:高度人材がいる

②:実現に必要な資金を手当てできる

③:広く企業にアクセスできる。地域にネットワークがある

 例えばその辺のコンサルだと①はあっても②や③がないし、自治体だと①や②を欠く。相互定型の様な形で自治体・金融機関・コンサルが共同事業をする様な形もあるが、そんなに上手くは行っていない様に思える。銀行は一気通貫でこれを全部持っている。

 

【何故「銀行による経営改善」が実現していないのか】

 こちらの理由としては以下が考えられる。

①:ペイしない

②:銀行に人材がいない

③:【中小企業の改善余地は多い】が伝わっていない

以下個別の内容を掘っていきたい

 

【①ペイしない】

 至極単純な話だが、製造原価100億円の大企業で原価を1%削減できれば1億円出て来るが、1,000万円を1%削減できた所で10万円しか出てこない。(売上増も然り)銀行員の高い人工を考えればこのような事をした所で全く割に合わない。銀行は現状取引先から資金を回収する方法が貸付金の金利が基本でその他は若干の手数料程度となる。前者の場合、制度上事業と完全に紐づける事は出来ないので、必死になって改善を実施して、必要資金は他行で調達される、様な事は普通に起きてしまう。

 

【②人材がいない】

 前項で書いた内容と2行で矛盾しているが、少し解像度を上げると銀行員の殆どは事業会社での勤務経験が無い。だからどうやって物事が進んでいるか、どんな意思決定がされているかを知らないし、事業そのものを構想したり運営した経験がない。どちらかと言うとどうしてもルーティンワークが多い。勿論彼らは高学歴で頭も良いから、場と金を準備して訓練すればそういう人材にはなるが、それを育てる仕組みも無い。優秀な方の本部人員なら素で出来るかもしれないが、そんな人材は営業店に来ない。

 

【③【中小企業の改善余地は多い】が伝わっていない】

 中小企業のオーナーは自分の守ってきた領域に関してはプロであるし、ちゃんとプライドも持っている。そこに事業に関して素人である銀行員がやってきてペラペラ調子が良い事を言われても「な~に言ってんだ」というのが彼らとしての正直な気持ちになる。勿論しっかりと中に入ってFSを実施、定量的に効果を説明できれば話は別だろうが、現状その様な事ができる仕組みがない。

 

 

【多分もうやるしかない】

 では、今後も現状は変わることは無いのかというと、これは変わらざるを得ないのであはないかと思われる。

地方銀行「本業利益」ランキング | 特集 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

上記記事にもあるが、今や地方銀行は1/3が赤字。しかもこれはコロナ対応の所謂ゼロゼロ融資によるドーピングを受けてこの数字、そして今後ゼロゼロ融資の返済が始まるとそこら中でせき止められていたコロナ倒産が来る。今は運用で食っている状態で、これは市況が変われば吹っ飛んでしまう。銀行のかつてのメイン業務である融資「貸せば返ってくる金を貸す」が儲かった時代は終わりつつあるのだと思う。多分「貸しても返ってくるか分からん金を貸すリスクを取る代わりに儲ける」仕組を作るしかない所まで来ている。

 

【動き始めた仕組みと今後】

 以前の記事でも触れたが、恐らく高リスク資金の回収はdebtでは構造上無理なのでequityでやるしかない。そしてそのルールに関しては直近規制緩和があった。

銀行法及び独占禁止法改正による5%ルールの例外措置拡充について | 森・濱田松本法律事務所

 

そして動くところは既に動き始めている。

三菱UFJ銀、融資先企業への投資事業を開始へ…4月にも専門部署 : 読売新聞オンライン

 

 勿論、全ての取引先に対してこうした手法が通用する筈も無く、実際に有用な所は限られると思われる。ただそうし先に対してはあらゆる手段を総動員して強引に業績を叩き上げて、一気に回収する手法がとられる、というかそれしか成立しなくなるのではないか。

 

【具体的な方法論】

 最後に、「改善」てなんだよ。という話について、事業会社に来て勉強した方法論を一つ書いて終わりたい。基本的には「理想の姿」を現状及び未来に向かうロードマップとして構想して、それに対して「現状」をぶつける。その間に存在する差異を埋める方法があるのかないのか、あったとして、それはペイするのかを個別に検証していく(FS)、という方法である。これは割と色んな所で再現性があるので、恐らく中小企業でも適用できる。実践した結果はまぁ大体が「実現性なし」となるのだが、たまに成立してこのアプローチで検証した物はやれば実現する。この辺はまた個別にはてブしてもよいかもしれない。